
皆
さんは「海からのご褒美」と聞くと何を連想されますか?いろいろな場所でいろいろな種類の「ご褒美」があるかと思いますが、今回のコラムでは私が10年以上フィッシングガイドをしていてとても強く心に残っている釣りでの「ご褒美」にまつわるエピソードをご紹介します。
前回、いろいろなフィッシングのスタイルがある中で、”G.T”(ロウニンアジ)のフィッシングについてのお話でした。この釣りは非常にハードな釣りで、釣りの道具も大がかりならば、相手も強靭、そして何よりも「自分が投げなければ、釣れない」という非常にメンタルに左右されるフィッシングであると、お話致しました。その釣りを新婚旅行で1日だけ体験されたカップルが今回のお話の主人公です。
このお客様、実はまったくの釣り初心者…どころか何と釣り初体験の方でした。それでも「このフィッシングを一度はしてみたい!」とお電話してきました。正直、釣りを普段日本でやっている方でもハードなこの釣りを、全く釣りをしたことがない方が行うのは相当大変ですし、しかも1日だけのチャレンジでは結果を出すのも難しく、その上ボートチャーターの料金もかなりの高額等々、いろいろな意味から今一度よく検討されたら….と、お話しました。しかし、それでもお二人のチャレンジ精神は強く、また同行の奥様も「彼の好きなように」と寛容で、「それでは、私も何とか結果を出せるよう全力を尽くします」とツアーの催行の運びとなりました。
何しろ釣りをするのは初めての方ですから、道具の扱い方も全く分かりません。リーフにいるだろうG.T(ロウニンアジ)に向けてルアーを投げるのですが、「こうして、ああして」「ハイ、分かりました」と言うものの、右へ飛んだり、左へ飛んだり、ポイントまでルアーがなかなか届きません。そうこうしているうちに、午前中は早々と終わってしまいました。
昼休み、あまりの大変さにショックを受けているかと思い、「大丈夫ですか?大変だったら、午後はスノーケリングでもして楽しみましょうか?」と聞くと「いや大丈夫です。最後まで頑張ります。」という返事。だまって見ていた奥様も「好きなだけやらせてあげて下さい。」という気丈な言葉。あと半日でどこまで結果が出せるか疑問でしたが、とにかくこのカップルの熱意を何とか形にしてあげたいと思いながら、残る午後に望みを託しました。午後のスタート。だんだん投げ方もルアーの動かし方もサマになってきて、「もう少し」というところまで上手くなってきましたが、今度は肝心の魚からの反応がありません。
2時になっても、3時になっても、いまだに1発のヒットもない状況、「あのリーフに向かって!」「左の浅瀬へ!」等私の言う指示に「ハイ!分かりました」と必死に投げ、けなげに、そしてひたむきに頑張ってくれました。傍らにいる奥様はご主人を見守りながら、時々カメラで写す程度で辛抱強く見ておりました。私もここまでやっているのだから1匹くらい、せめてアタリだけでも…と思いながら時間は過ぎていきました。
夢中になってポイントを探しているうちにもう既に4時半。帰港の時間を考えるとポイントはあと1箇所。考えられる全てのポイントをやりましたが、結果は出ないまま最後のポイントになってしまいました。お客様に「一生懸命やっていただきましたが、時間的にこれが最後のポイントです。最後まで頑張りましょう。」と伝え、お客様も変わらず「ハイ、分かりました。」と短く言うと、またしゃにむに投げてくれました。最後のポイントは実は今まで釣れた実績がなく、何とも自信の無いポイントでしたが、なんとそこでの2投目、突然目の前に大きなバシャ!という水柱があがりました。ヒットです!「出たー」「耐えて!リールを巻いて!」と叫びながら、後ろにまわり体を支えてやりながらお客様を見ると、ヒットも初めて、ファイトも初めての何がなんだか分からない強烈な引きの魚に竿を大きくしならせながら、必死の思いで耐えておりました。となりにいた奥様もいきなりのヒットにびっくりしながら、懸命なファイトをする旦那さんの姿をここぞとばかりに夢中でカメラに収めており、まさに船上、大パニックの様子でした。
渾身のファイトの末、姿を表したのは立派なサイズのG.T、念願のロウニンアジでした。私が魚をつかんでボートに上げた瞬間、「やった!」という声にならない歓喜。最後にして最高の瞬間でした。そして「弱らないうちに写真を撮ったらすぐにリリース(放流)しますよ」と私が言うと、奥様が突然「ごめんなさい!実はもうフィルムがない!」との事。「えー!」という感じで、聞いてみると初めてのヒットに興奮して、24枚撮りのフィルムをファイトの写真で全部使い切ってしまったという事でした。その当時、デジカメは無く、フィルムカメラのみで、なんとせっかく釣った記念の写真がないという事態でした。私は「一生懸命投げてようやく釣った1匹ですから、このままキープしてホテルに帰って写真を撮りましょう。せっかくの新婚旅行の思い出ですから。」と言うと、しばらくじっと考えていたお客様は一言「大事な魚ですから、このまま逃がしましょう」と言い、「え!本当にいいんですか?」と念押ししましたが、逃がしたい思いは変わらないようで、私も複雑な思いで海に戻す作業に入りました。「本当に写真がなくてもいいのかなぁ….」と思いながら、壮絶なファイトでやや酸欠になったG.Tを、船べりで蘇生させていると、お客様が横から「頑張れ、頑張れ」と優しくG.Tの背中をなでていました。
7、8分位経った頃、魚も突然息を吹き返し、すっと青い海に戻っていきました。「良かった、帰っていった」と思いながら、改めて「おめでとうございました」と言いお客様を見ると、お客様はその場に座り込みうつむいて泣いているようでした。それを見て奥様も涙を流しており、またしても船上が感動であふれました。少し時間が経った後、お客様が私にこうお話してくれました。
「久米さん、私は今までこんなに一つのことに、結果を考えず、がむしゃらにやったことはなかったかもしれません。最初は何とか釣りたいと思いましたが、だんだん釣れなくても一生懸命やればそれでもいい、という気持ちになりました。うちの奥さんもそんな私をだまって見ていてくれました。ひょっとしたらこれはパラオの海からのご褒美なのかもしれませんね。だからこの魚だけはどうしても海に返したかったんです。写真がなくてもそれ以上の思い出が残っています。本当に今日はガイドしていただき、ありがとうございました。」私はこのお話を聞いた時、この仕事をしていて本当に良かったと心から思い、「海からのご褒美」という言葉にとてもあたたかい気持ちになったのを今でも覚えています。
あなたはこれからパラオでどんな「海からのご褒美」にめぐりあえるでしょうか?![]() |
久米信行 (くめ のぶゆき) |


