オリジナルコラム
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執筆者: S
vol.126 イルカ獣医師体験談
12601.jpg 皆様こんにちは。ドルフィンズパシフィックの獣医師Sです。今回で3度目のコラム投稿になります。初めて投稿させて頂いた際は、私自身まだパラオに来て間もなかったのですが、早いものでこちらに来て早2年が過ぎ去ってしまいました。プロフィールにもご紹介させて頂いたように、私は日本にて動物病院勤務を経た後、こちらに移ったのですが、パラオで2年間イルカの医療に携わって見て感じたことは、「奥深さ」に尽きると思います。
 さて、皆様のイルカの獣医師に対するイメージとはどのようなものでしょうか?もしか したら、このコラムを読まれている皆様の中には将来、イルカと一緒に働いてみたいと考えておられる方もおられるかもしれません。私の少ない経験で申し訳ないのですが、この場をお借りして、少し現場の様子を伝えていきたいと思います。

 まず、私たちの施設は主として、お客様にイルカに触れ合っていただく施設です。その中で、日々のイルカの健康状態を把握するのが私の主な仕事なのですが、この施設はイルカの病院ではないので、基本的にイルカは平穏無事に毎日を過ごしております。つまりこの時点では特別にイルカを「治療」する必要性はなく、病気にならないように、「予防」と「観察」をする段階なのです。この点が、動物病院とは決定的に異なります。冒頭で「奥深さ」という言葉を使用いたしましたが、この段階こそが、イルカ医療の最も難しい領域の一つなのだと私は感じております。
 というのも、イルカが本格的に体調を崩してしまうと、治療が非常に難しくなる場合があります。パラオという環境も災いして、必要な薬品がすぐに入手できない場合も多々あります。つまり病気が進行する前に早期発見することが、その後のイルカの治療予後に大きく影響するのです。そのために、私たちがイルカの体の異変を早期の段階で察知する必要があるのですが、動物観察の経験が豊かでないと、ここで判断を見誤ってしまいます。個々のイルカによって体調が悪くなったときの行動パターンに違いがあり、その個体を熟知していないと、体の異変すら感知できないという事態に陥ってしまいます。そのために、スタッフ間での密な連携プレイが必要となります。連携プレイ無くして動物の異変は発見できません。
12602.jpg 私の愛用している医学書籍にこのような言葉があります。「どのような高性能な消防車が待機していても、全焼一分前に現場に駆けつけたのでは消火は出来ない。消防の命運を別けるのは、どの段階で消火活動を行うかに尽きる。」
 これは比喩的に"病気"を"火事"に例えて、治療成績について言及しているのです。
 最近、一緒に働いているスタッフに、イルカの医療レベルが高い水族館ってどこなのでしょうという内容の質問をされました。この質問を受けたとき、一瞬脳裏に、海外に数多く存在する高度医療設備を有する水族館が浮かびましたが、すぐに頭から消えました。それは、自分たちの施設が行っているイルカの健康管理は、シンプルではありますが十分高度であったと思えたからです。  パラオのような島国で生活をすると、日常生活から余計な雑念や私欲が無くなり、逆に本当に重要視しなくてはならない基本的な概念のみが浮き彫りになります。これは勿論人によって感じ方は様々ですが、私の場合、命を扱う仕事を通じて、連携することの重要性を知りました。この感覚は獣医師としてではなく、人間としても欠かせない概念です。ここで得た概念をいつまでも心に宿し、色々な局面に生かしていきたいと考えております。

12603.jpg 皆様、どうでしょうか?イルカと一緒に働くという仕事がどのようなものか、少しでも伝わったでしょうか?連携を取りながら、毎日大切に飼育を行っている私たちのイルカは、いつでもここで皆様の来館をお待ちしております。もし来館された際に元気なイルカの様子を目にしたら、私たちの連係プレイがうまく行っているのだなと思って下さい!!


写真説明
 写真上 私たちの飼育している元気なイルカです。
 写真中 施設内にある検査室です。
 写真下 島の動物の診療を頼まれることもあります。

S
動物病院の勤務経験を経て、現在ドルフィンズパシフィックにて獣医師として勤務。ラオにある医療施設を最大限に利用してイルカの健康を管理しております!

vol.100 パラオでの出会い


 

んにちは。ドルフィンズパシフィックの獣医師Sです。パラオにきて一年以上たちますが、ここで生活していく中で、自分とは全く違う分野で活躍されている人たちと出会う機会が増えました。世の中で一流と呼ばれている人たちは、どのような分野の人間であれ共通した何かを持っていて、それは私に強烈なインパクトを与えてくれます。今回はこのパラオで出会った、某ホテルの元料理長が私に教えてくれたことにスポットを当てて書いてみたいと思います。
 彼は、日本の名のあるホテルで料理長を務めていたという経緯をもち、その後海外のホテルの勤務経験を経て、パラオにやってきました。パラオはそれほど食材が豊かな国ではないので、その環境の中で料理を作るということはかなり大変だったようです。そもそも彼と知り合うきっかけになったことは、私もそのとき獣医師としてこのパラオで何が出来るのだろうかと悩んでいたからです。私がそのような相談を持ちかけると、彼はアドバイスをくれました。確かにパラオでは、先進国で当たり前のように行っていることが出来ないような状況は多々あります。そのような局面に立たされたとき、人は「考える」ということをします。日本ではある事柄が起こったとき、Aというプランでほとんど解決できるとしても、パラオでは出来ない。ならばBプランやCプランを考えないと料理が出せない、もしくは動物を治療できないわけです。例えばパラオで購入できる食材が日本のものと比べて味が異なったとします。ですが、そのような状況でも、お客様のニーズを満たすような料理を作らなければいけないのです。そこで料理人のセンスが問われるのだと思います。料理人として、どのように工夫したら本来の料理に近づけるか試行錯誤します。そこで、「考える力」が養われるのだと言います。
 私は彼の経験に基づいたお話を聞かされて、とても参考になりました。物が豊かな場所で生活していたら、到底考え付かないようなことを、ここパラオでは考えざるを得ません。このような「思考すること」の積み重ねが、いつしか自分の糧となり、様々な局面の中で生かされてくるのだと思います。私は彼からアドバイスを頂いてから、ますますこの国が好きになりました。そして、この国で出来る最大限のことを自分で実行したいと思えるようになりました。
土俵は違っても、彼が私にくれたアドバイスは私にとってかけがいの無い物となり、心の中に刻まれております。色々な事が濃縮されたこの島には、貴方の心を豊かにする出会いが沢山潜んでいます。皆さん、ぜひここに来て耳を澄ませてみて下さい。同じように耳を澄ませて待っている人と出会えるかもしれません。

 

S
動物病院の勤務経験を経て、現在ドルフィンズパシフィックにて獣医師として勤務。パラオにある医療施設を最大限に利用してイルカの健康を管理しております!

 

 

vol.70 パラオが教えてくれる大切なこころ

様初めまして。ドルフィンズパシフィック獣医師Sです。ここでは、イルカの健康状態を管理するのが私の主な仕事です。こちらに赴任して1年に満たないのですが、以前は日本の動物病院で勤務しておりました。パラオに来てすぐの頃は、仕事内容の違いに当惑したことを覚えております。以前私が診ていたような犬や猫とは全く違い、相手は体長3m近くもあるイルカです。人慣れしているイルカとはいえ、トイプードルのように抱っこして診察台に乗せる訳にはいきません。今まで当たり前のように行ってきた検査を、同じようにイルカに行える訳でもないのです。ではその中で動物の健康状態を快適にするためにはどうしたらよいのでしょう?
答えは非常にシンプルです。「動物を救うために必要な環境作り」をするという事です。イルカの周りには様々な環境が存在します。私達スタッフや、この施設に来ていただくお客様も、その一つです。こういった身の回りの環境を常に良い状態にすることが、必ずイルカに還元されていると私は考えております。例えば、スタッフ間の円滑なコミュニケーションが、病気の早期発見に繋がる事もあります。高度な機器を駆使して行う医療行為とは異なりますが、その根本でもある、人間として基本的に必要な側面を大切に持ち続けることが、目の前にいる動物を救う近道になると私は考えております。これが、私がパラオに来て一番強く学んだことです。これは他のどのような仕事にも共通して言えることだと思います。

最近、ある年配の有能なカメラマンの言葉を思い出します。「私は子供が、母親に見せるような笑顔を撮りたかったのだ。しかし、今は被写体をより高画質で撮る事を、強く求められるようになった」と。いつしか彼はカメラを持たなくなりました。職業は違っても、私は彼の言った言葉の意味はわかります。多くの技術者はこのパラオの風景を一枚の高解像度のメモリーに残すために、最新型デジタル一眼レフを駆使して性能の限界に迫るのでしょう。ファインダー越しに南国の水平線がやわらかな曲線を描き、青い光をもらし、そのイメージを切り取り、千万画素のCCDで記憶し、メモリーの中に溜め込みます。ただ、パラオで目の当たりにする景色は、現在の一眼レフを駆使しても到底表現することが出来ないものです。その景色が醸し出す色彩はもはや地球の色と表現しても過言ではありません。一見はどんな言葉よりも雄弁に語ります。

まだ私が小さな頃、動物を救える人間になりたいという一心でこの世界に踏み込みました。やがて月日は流れ、職業に対する理想像は私の中で少しずつ姿を変えてきました。ですがその根本はずっと変わらず、今でもパラオという国は私に初心を思い出させてくれます。それは本当にシンプル過ぎて人々が日々忘れがちになるくらい基本的なことです。知人のカメラマンが大切にしていた概念はまさにこの事だと私は解釈しています。
ここは基本的な事を静かに教えてくれる宝島。ぜひ、あなたの心に存在する大容量のコンパクトフラッシュカードを一箱分ご持参ください。保存されたメモリーは必ずあなたの心に無数のレイヤーを作ってくれると思います。パラオに潜むサンゴ礁の層のように。そして、この国はあなたに質問を投げかけることでしょう。「あなたは何か遠い過去に置き忘れてしまった物はありませんか?」とね。

 


 

S

動物病院勤務を経て、現在ドルフィンズパシフィックにて獣医師として勤務。学生時代にパラオを訪れたことがきっかけとなり就職を決意。イルカに囲まれながら日々奮闘中!!